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スタッフブログ 痛みについて、いま分かっている事、鍼灸にできること。
痛み とは?改めて考えてみましょう。
「治療しているのに、なかなか痛みが引かずに続く…」
「検査では異常なしと言われたけど、身体が痛い…」
と感じたことはありませんか。
これは、痛みが単純に「傷ついた場所で発生して、そのまま脳へ届く」という一方向の仕組みだけでは説明できないために起こります。
痛みは、身体から伝わる情報だけでなく、脊髄や脳での情報処理、注意や感情、過去の経験など、さまざまな要素が関係する複雑な感覚です。
この記事では、痛みと脳の関係について、末梢神経から脊髄、脳での情報処理、そして痛みを調節する仕組みまで、神経科学の視点からわかりやすく解説します。
そもそも「痛み」とは何?
痛みは、身体に起こっている危険や変化を知らせる重要な感覚です。
たとえば熱いものに触れたときに手を引っ込めたり、ケガをした場所をかばったりすることは、身体を守るための行動につながります。
一方で、痛みは単純に「組織が傷ついた量」をそのまま表しているわけではありません。
国際疼痛学会(IASP)は、痛みを「実際の組織損傷、またはその可能性に関連する、あるいはそれに似た不快な感覚・情動体験」と定義しています。
また、IASPは痛みと侵害受容は同じ現象ではなく、感覚神経の活動だけから痛みを判断することはできないとしています。
痛みとは「不快な感覚・情動である」「痛みを感じさせるのは、それを伝える感覚神経のみではない」
…つまり、組織の損傷と痛みは密接に関係しますが、両者を完全に同じものとして考えることはできないということですね。
痛みは「気のせい」ではありません
上記の「組織の損傷と痛みが一致しないことがある」という説明は、「痛みは気のせい」という意味ではないことです。
痛みは本人が実際に経験している感覚であり、その経験には生物学的、心理的、社会的な要素がさまざまな程度で関係します。
そのため、痛みを理解するときには、痛い場所だけを見るのではなく、神経系を含めた全体的な状態を考えることが重要です。
痛みはどのように脳へ伝わる?
そもそも痛みはどう伝わるのか?少し専門的な話をします。
痛みに関係する情報は、身体の末梢から脊髄を経て、さまざまな脳の領域へ伝えられます。
しかし、実際の痛みの処理は非常に複雑であり、単純に「身体から脳へ一本の線で伝わる」と考えるのはあまり正確ではありません。
① 身体で刺激を感知する
皮膚などに強い熱、圧力、化学的刺激などが加わると、「侵害受容器」と呼ばれる特殊な器官(感覚神経終末)が刺激を検出します。
「侵害受容器」は、潜在的に組織を傷つける可能性のある刺激を検出し、その情報を電気的な神経信号として中枢神経系へ伝えます。
(参考:Nociceptors: the sensors of the pain pathway)
噛み砕いていうと、身体には「危険を察知するセンサー」があり、そのセンサーが刺激を感知すると、その情報を電気的な神経信号に変換し、脊髄や脳へ伝えるという役割を担っています。
② 脊髄を通って情報が伝わる
末梢から入った侵害受容に関する情報は、脊髄の後角などで処理されます。
その後、複数の上行経路を通って脳幹や視床、大脳皮質などへ伝えられます。
脊髄は単なる「通り道」ではなく、感覚情報を処理し、それを上位中枢(脳)へ伝える重要な場所でもあります。
(参考:Neuronal circuitry for pain processing in the dorsal horn)
③ 脳で情報が処理される
脳では、身体から伝わった情報が複数の領域や神経ネットワークで処理されます。
そこでは、痛みの「場所」や「強さ」に関係する感覚的な情報だけでなく、不快感、注意、感情、認知なども関係します。
そのため、痛みは単一の脳領域だけで生み出されるものではなく、複数の神経回路が関係する多面的な経験として捉えられています。
(参考:Brain circuits for pain and its treatment)
つまり、痛みは「ただ物理的な刺激を受けたから感じる」のみではないということです。
「痛い」と感じるとき、仮に身体のどこも物理的に傷ついていなかったとしても、我々は確かに痛みを感じている。それは決して気のせいではないんですね。
「痛みは脳で感じる」とはどういうこと?
「痛みは脳で感じる」という表現は、痛みの経験に脳での情報処理が関係しているという意味で理解すると分かりやすいでしょう。
脳が身体から届いた情報をさまざまな情報と統合しながら処理することで、私たちは痛みを経験します。
したがって、「脳が勝手に痛みを作っている」という単純な意味ではありません。
身体から届く情報と、それを処理する脳・脊髄などの神経系が相互に関係しながら、痛みという経験が形成されます。
痛みには複数の脳領域が関わっている
これは専門的な話ですが、痛みの処理には、視床、島皮質、前帯状皮質、体性感覚関連領域など、複数の脳領域が関係しています。
これらの領域は、それぞれが完全に独立して働くのではなく、感覚、感情、注意、認知などに関係する神経ネットワークの中で相互に作用します。
そのため、現在の神経科学では「痛みの中枢はここ」と一つの場所だけを示すよりも、痛みに関係する複数の神経回路やネットワークとして理解することが適切です。
(参考:Brain circuits for pain and its treatment)
なぜ同じ刺激でも「痛みの感じ方」が違うの?
同じような刺激を受けても、すべての人が同じ強さの痛みを感じるとは限りません。
痛みの経験には、注意、期待、過去の経験、感情、置かれている状況など、さまざまな要素が関係します。
研究では、注意や認知的な負荷などによって、痛みの感じ方が変化することが報告されています。
注意や感情も痛みの経験に関係する
たとえば、痛みに強く注意が向いているときと、別のことに集中しているときでは、痛みの感じ方が異なることがあります。
これは経験的にご存じの方も多いかと思います。
また、不安や恐怖などの心理的な要素が痛みの経験に関係することもあります。
上記の話に関連して、患者さまからよく「鍼治療は痛いですか?」と聞かれることがあります。
確かに刺す瞬間、すこしチクっとする事もありますが、
鍼治療で使用される針は髪の毛ほどの非常に細いもので、一般的にイメージされる注射針のような「針」とは太さが異なるので、基本的にはほとんどお痛み無く受けていただけます。
ただ、初めてで鍼に対して怖さを感じる方などで、強い緊張や不安などによってお痛みを感じられる方も中にはいらっしゃいます。
鍼治療中、もしお痛みを強く感じた場合は、刺激量の調節などで対応いたしますので、我慢せず遠慮なく仰ってくださいね。
慢性痛では何が起こっている?
長期にわたる肩こりや腰痛など、痛みが長期間続く場合には、痛みを処理する神経系の働きにも変化が生じることがあります。
慢性痛に関連する研究では、脳や脊髄を含む神経系の機能的・構造的な変化や、神経ネットワークの変化が報告されています。
こうした神経系の変化を理解するうえで重要な概念の一つが神経可塑性です。
神経可塑性とは、経験や刺激などに応じて神経系の機能や構造が変化する性質を指します。
慢性痛では、この神経可塑性が痛みの持続や過敏性と関連する可能性が研究されています。
(参考:Neuroplasticity in chronic pain: insights into diagnosis and treatment)
難しい話なので噛み砕いて説明すると、
痛みを長期間感じ続けると、神経の感じ方などに変化が起きていきますが、神経にはこれを再構築する力があり、治療によって神経ネットワークに新たな回路が生まれたり、適応・回復する可能性がある、という話ですね。
痛みが続く=必ず組織が壊れ続けている、ではない
ただ、痛みが長く続いているからといって、必ずしも同じ組織が壊れ続けているとは限りません。
一方で、慢性痛だから身体に問題がないとも限らないため、痛みが続く場合には原因や状態を適切に評価することが大切です。
慢性痛には、原因となる疾患や組織の問題が明確な場合もあれば、複数の要因が複雑に関係する場合もあります。
慢性疼痛の分類においても、身体的な要素だけでなく、心理的・社会的な要素を含めて多面的に捉える考え方が用いられています。
(参考:The IASP classification of chronic pain for ICD-11: chronic primary pain)
脳には「痛みを調節する仕組み」もある
痛みの情報は「身体から脳へ」という一方向だけで伝わっているわけではありません。
脳や脳幹などから脊髄へ向かう神経系によって、侵害受容に関する情報の伝わり方が調節される仕組みもあります。
痛みを感じたら痛みっぱなし、という事でもなく、脳はその刺激・痛みをなんとかしようと働いてくれるんですね。
その仕組みの一つに「下行性疼痛調節系」というものがあります。
(参考:Descending Control Mechanisms and Chronic Pain)
そしてこの疼痛抑制系は、実は鍼灸治療とも大きく関わっています。
下行性疼痛調節系とは?
下行性疼痛調節系とは、専門的な言い方をすると「脳や脳幹などから脊髄へ向かう神経系の働きによって、痛みに関する情報の伝わり方を調節する仕組み」です。
身体が刺激を感じると、脳はその刺激に対応しようと様々な脳内物質を分泌します。
代表的なものでいうと、いわゆる脳内麻薬で知られる「β-エンドルフィン」などですね。
それらの脳内物質が、最終的に痛みに対する鎮痛作用として働き、身体が過剰に痛みを感じすぎないように守ってくれている、という訳です。
鍼灸は、この脳の仕組みを利用して痛みに対するアプローチができます。
身体に鍼が入ってくると、先ほど述べた「刺激を感知するセンサー」が反応し、脳に電気信号を送ります。
興味深いのは、その刺激が「痛みを伴わなくても反応する」というところです。
つまり、鍼灸治療は「刺す時にほとんど痛みを感じないのに、痛みを感知するセンサーが反応してくれて、脳内物質の放出を促し、結果的に鎮痛作用を起こしてくれる」のですね。
参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32503194/
鍼灸と痛みの関係を神経科学から考える
ここまで見てきたように、痛みには末梢神経、脊髄、脳、そして下行性の調節系など、複数の神経系が関係しています。
では、鍼灸による刺激は、この神経系とどのように関係するのでしょうか。
鍼刺激は身体への感覚刺激のひとつ
鍼刺激によって皮膚や筋などに刺激が加わると、その刺激に応じた感覚情報が末梢神経を介して中枢神経系へ伝わります。
基礎研究や神経生理学的研究では、鍼刺激に伴う末梢神経から中枢神経系への情報伝達や、痛みに関係する神経系との関係が研究されています。
(参考:Scientific bases of acupuncture analgesia)
鍼刺激と痛みの調節について研究が進んでいる
鍼灸の鎮痛メカニズムについては、末梢での反応、脊髄レベルでの情報処理、脳を含む中枢神経系など、複数のレベルから研究されています。
近年のレビューでも、鍼灸と痛みに関係する神経ネットワークや神経生理学的な作用について研究が進められている一方、作用機序のすべてが解明されたわけではないとされています。
(参考:Recent advances in acupuncture for pain relief)
鍼灸で「脳を治療する」可能性についての考え方
「脳を直接治す」という考え方ではない
鍼灸の鍼は、TMSのように頭蓋外から磁気刺激を加える治療や、DBSのように脳深部へ電極を留置して刺激する治療とは異なります。
鍼灸では、身体に鍼などの刺激を加えることで生じる感覚情報と、神経系との関係を考えて治療していきます。
当院の鍼灸治療である「新脳針」は、頭部を中心に全身への鍼刺激を行い、0.7mAの微弱電流による電気刺激を用いて「確率共鳴」を目指すものです。
研究では鍼刺激と脳活動や神経ネットワークとの関係も調べられていますが、
現状の研究では「鍼灸が脳の痛み回路を正常化する」といった単純な断定はまだできません。
この分野は、今でも研究や臨床が続けられている最中です。
東京銀座鍼灸院が考える「痛みと脳・身体の関係」
東京 銀座鍼灸院では、痛みのある場所だけを見るのではなく、身体全体の状態を確認することを大切にしています。
痛みの背景にはさまざまな要因が関係する可能性があるため、症状の経過や生活状況なども含めてお話を伺います。
また、身体への刺激によって生じる感覚情報が神経系へ伝わるという「感覚入力」の考え方も大切にしています。
施術では、症状や身体の状態を確認したうえで、当院で行っている新脳針療法に、リセプター療法や動作改善法などを組み合わせて治療を検討します。
新脳針療法についても、「脳を直接変える」「脳の痛み回路を正常化する」といった単純な捉え方ではなく、身体や頭部への刺激によって生じる感覚情報と神経系との関係という視点から考えています。
なお、鍼灸による刺激と神経系との関係については研究が続いており、現在の研究で明らかになっていることと、今後さらに検証が必要なことを分けて考えることが大切です。
東京銀座鍼灸院では、現状西洋医学でわかっていることと、神経科学、東洋医学の視点も取り入れながら、治療の可能性について日々臨床を続けています。
痛みが続くときに大切なこと
痛みの原因を自己判断しない
痛みが続いている場合、「筋肉の問題だろう」「神経の問題だろう」と自己判断だけで原因を決めることは避けたほうがよいです。
急激に強くなった痛み、発熱を伴う痛み、麻痺や強いしびれなどの神経症状、外傷後の強い痛み、胸痛や強い腹痛などがある場合には、医療機関への相談が必要になることがあります。
特に、これまで経験したことのない急激な症状や、意識障害、呼吸困難などを伴う場合には、緊急の医療対応が必要となる可能性があります。
痛みの原因にはさまざまな疾患が含まれるため、症状だけから自己判断せず、必要に応じて医療機関で評価を受けることが大切です。
慢性的な痛みも一人で抱え込まない
慢性的な痛みが続いていると、「検査で異常がないから自分の気のせいなのではないか」と悩んでしまう方もいます。
しかし、痛みは組織損傷の程度だけでは説明できない場合があり、痛みそのものを一つの重要な症状として評価することが大切です。
痛みが長期間続いている場合には、医療機関や痛みを専門とする医療者などに相談しながら、自分の状態を整理していくことをおすすめします。
よくある質問
Q1. 痛みは本当に脳で感じるの?
痛みに関する情報が脳で処理されることは、痛みを理解するうえで重要なポイントです。
ただし、「脳の一か所だけで痛みを感じる」という意味ではなく、複数の脳領域や神経ネットワークが関係する複雑な経験として捉える必要があります。
Q2. 痛みがあるのに検査で異常がないのはなぜ?
痛みは組織の損傷だけで決まるものではないため、画像検査などで明らかな異常が確認できなくても痛みが存在する場合があります。
その場合も「痛みが存在しない」という意味ではなく、身体的な要素だけでなく神経系や心理社会的な要素などを含めて状態を評価することが重要です。
Q3. 慢性痛は脳の病気なの?
慢性痛を一律に「脳の病気」と考えることは適切ではありません。
慢性痛には、身体の状態、末梢神経や中枢神経系、心理的・社会的要因など、さまざまな要素が関係する可能性があります。
Q4. 鍼灸は脳に作用しますか?
鍼刺激によって生じる感覚情報が神経系へ伝わることや、鍼刺激と脳活動・神経ネットワークとの関係については研究されています。
一方で、「鍼灸が脳を直接治療する」と単純化して説明することは適切ではありません。
脳を含め神経科学は複雑な領域のため、事象を単純化して当てはめることは難しいのです。
Q5. 痛みがある場所に鍼をすればいいの?
鍼灸では、痛みの場所だけでなく、症状の経過や身体の状態などを含めて施術方法を検討する考え方があります。
どのような刺激を行うかは、痛みの種類や状態、身体全体の状態などによって異なります。
当院では、患者様一人ひとりのお身体の状態、心の状態に向き合いながら、愛ある施術を心がけて治療にあたっています。
まとめ
痛みは、単純に「痛い場所だけの問題」として捉えられるものではありません。
身体への刺激によって生じた侵害受容に関する情報は、末梢神経から脊髄などを経て、さまざまな脳領域へ伝えられます。
そして脳では、感覚情報だけでなく、注意、感情、認知、過去の経験なども関係しながら、痛みという経験が形づくられます。
さらに、脳や脳幹から脊髄へ向かう下行性の神経系によって、痛みに関する情報の伝わり方が調節される仕組みもあります。
そのため、痛みを考えるときには、身体・末梢神経・脊髄・脳を一つにつながった神経系として捉える視点が重要です。
慢性的な痛みでお悩みの場合も、「痛い場所だけを見る」という視点から少し離れ、身体と神経系の関係を含めて状態を考えることができます。
東京 銀座鍼灸院では、身体への刺激によって生じる感覚入力と神経系との関係にも目を向けながら、一人ひとりの症状や身体の状態を確認しています。
痛みについて気になることがありましたら、一人で抱え込まず、まずは当院、または病院や専門家へご相談ください。
鍼灸師 人見
参考文献
- 1. The revised International Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises
- 2. Nociceptors: the sensors of the pain pathway
- 3. Brain circuits for pain and its treatment
- 4. Neuroplasticity in chronic pain: insights into diagnosis and treatment
- 5. Recent advances in acupuncture for pain relief
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