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スタッフブログ tVNSとは?耳から迷走神経を刺激する仕組みと新脳針との違い
tVNSとは?耳から迷走神経を刺激する仕組みと新脳針との違い
「tVNSという治療を聞いたことがあるけれど、どのような方法なの?」
「耳を電気刺激すると、なぜ迷走神経に関係するの?」
「tVNSと鍼灸、新脳針にはどのような違いがあるの?」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
tVNSは、身体の表面から電気刺激を加えることで、迷走神経系への刺激を試みる方法です。
特に、耳介(耳)の一部には迷走神経の耳介枝が分布するとされており、耳を介して迷走神経系を刺激するtaVNS(経皮的耳介迷走神経刺激)について、さまざまな研究が行われています。
一方、鍼灸では鍼などを用いて身体に刺激を加えます。当院で行っている「新脳針療法」も、鍼刺激や必要に応じた電気刺激を用いる鍼灸の一つです。
この記事では、tVNS・taVNSの基本的な仕組み、耳を刺激する理由、現在研究されている領域について整理したうえで、tVNSと新脳針の違いをわかりやすく解説します。
なお、tVNSは研究が進められている領域であり、疾患や刺激方法によって医学的な位置づけやエビデンスの程度は異なります。研究結果を、そのまま特定の疾患に対する治療効果と考えないことが大切です。
tVNSとは?
・tVNSは迷走神経系への刺激を利用する方法
tVNSは、transcutaneous Vagus Nerve Stimulation(経皮的迷走神経刺激)の略称です。
「transcutaneous」は「経皮的」という意味で、皮膚を介して電気刺激などを加える方法を指します。
迷走神経は、脳から首、胸部、腹部などへ広く分布する重要な神経の一つです。身体のさまざまな器官から脳へ情報を伝える感覚神経としての働きも持っています。
tVNSでは、外科的に迷走神経へ電極を留置するのではなく、身体の表面から刺激を加えることで、迷走神経系への作用を得ることを目指します。
ただし、刺激した部位から迷走神経系へどのような経路で影響が伝わるのかについては、刺激部位や条件によって異なり、研究が続いている部分もあります。
・耳を刺激するtaVNSとは?
tVNSの研究の中でも、特に注目されているのが、耳を介して刺激する方法です。
これをtaVNS(transcutaneous auricular Vagus Nerve Stimulation:経皮的耳介迷走神経刺激)と呼びます。
- tVNS:経皮的迷走神経刺激という、より広い概念
- taVNS:耳介を介して迷走神経系への刺激を試みる方法
という関係で整理すると分かりやすいでしょう。
研究論文では、tVNSとtaVNSという名称が必ずしも統一されておらず、用語の使われ方にばらつきがあることも指摘されています。
なぜ「耳」から迷走神経を刺激するの?
・耳には迷走神経の耳介枝が分布する領域がある
耳には、複数の神経が分布しています。
その中には、迷走神経の耳介枝(auricular branch of the vagus nerve:ABVN)と呼ばれる神経の枝もあります。
このため、耳の一部を電気刺激することで、迷走神経に関連する神経系への刺激を行える可能性が研究されています。
ただし、ここで注意したいのは、耳全体が迷走神経だけによって支配されているわけではないということです。
耳には迷走神経以外にも複数の神経が分布しており、神経の分布には重なりもあります。
そのため、「耳を刺激すれば必ず迷走神経だけが刺激される」と単純に考えることはできません。
・耳からの刺激が神経系に影響する可能性
耳介の特定の領域に刺激を加えることで、迷走神経を含む神経系にどのような影響が生じるのかについて、さまざまな研究が行われています。
研究では、心拍、脳活動、自律神経系、神経ネットワークなどとの関連が検討されています。
tVNSではどのような研究が行われている?
①うつ病に対する研究
tVNS・taVNSについては、うつ病や抑うつ症状を対象とした研究が行われています。
複数の臨床研究やメタ解析で、抑うつ症状の変化について検討されていますが、研究数や対象者数、刺激条件などにはばらつきがあります。
そのため、研究で一定の結果が報告されていることと、すべてのうつ病患者さんに対する治療効果が確立していることは別の問題として考える必要があります。
②脳卒中後のリハビリテーションに関する研究
脳卒中後の運動機能や日常生活動作などを対象として、taVNSをリハビリテーションと組み合わせる研究も行われています。
神経系への刺激とリハビリテーションを組み合わせることで、運動学習や機能回復との関係を検討する研究が進められています。
③てんかん・睡眠などへの研究
てんかんや睡眠障害などについても、tVNS・taVNSを対象とした研究が行われています。
睡眠については、睡眠の質や不眠症状などを評価した臨床研究やメタ解析があります。また、てんかん患者さんを対象とした研究では、抑うつ症状や発作頻度などについて検討されています。
ただし、これらの研究結果だけから、tVNSを特定の疾患に対する標準的な治療として一般化することはできません。
・まだ研究段階の領域も多い
tVNS・taVNSは、近年研究が活発になっているニューロモジュレーションの一つです。
さまざまな疾患や症状を対象とした研究が行われていますが、疾患によって研究の蓄積や医学的な位置づけは大きく異なります。
特に重要なのは、
「研究されている」ことと「治療効果が確立している」ことは同じではない
という点です。
今後、より大規模で条件を統一した研究が行われることで、どの疾患に、どのような刺激条件が適しているのかが明らかになっていくことが期待されています。
tVNSと従来のVNSは何が違う?
「迷走神経刺激」という言葉を調べると、tVNSのほかにVNS(迷走神経刺激療法)という言葉も出てきます。
両者は名前が似ていますが、刺激の方法が大きく異なります。

従来のVNSでは、迷走神経に電極を留置して電気刺激を行います。一方、taVNSでは、耳介など身体の表面から刺激を加えるため、外科的に迷走神経へ電極を留置する必要がありません。
ただし、これは「tVNSなら誰でも受けられる」という意味ではありません。使用する機器や刺激条件、対象となる疾患によって注意点が異なるため、適切な評価が必要です。
tVNSと新脳針は何が違う?
・どちらも「身体から神経系への刺激」という共通点がある
tVNSと新脳針には、一つの共通する考え方があります。
それは、身体に刺激を加え、その刺激によって生じる感覚情報と神経系との関係に着目するという点です。
tVNSでは、電気刺激によって迷走神経系への刺激を試みます。
一方、新脳針では、鍼刺激や必要に応じた微弱な電気刺激によって身体に刺激を加え、そこから生じる感覚入力と神経系との関係に着目します。
ただし、この共通点だけをもって、tVNSと新脳針が同じ作用をするという意味ではありません。
・刺激方法と考え方は異なります

このように、刺激方法も、刺激対象も、医学的な位置づけも異なります。
・「耳を刺激する=新脳針と同じ」ではありません
両者は「身体への刺激を神経系との関係から考える」という部分では共通点がありますが、具体的な刺激方法や理論、医学的エビデンスは区別して考える必要があります。
新脳針では身体からの「感覚入力」に着目しています
・身体は常に脳へ情報を送っている
私たちの身体では、触覚、圧覚、温度感覚、痛覚、身体の位置や動きなど、さまざまな情報が常に生じています。
これらの情報は末梢神経を介して中枢神経系へ伝わり、脳や脊髄で処理されます。
つまり、身体は単に「脳から命令を受ける場所」ではなく、常に神経系へ情報を送り続ける場所でもあります。
・鍼刺激も一つの感覚入力になる
鍼を皮膚や組織に刺入すると、身体にはさまざまな感覚刺激が生じます。
その刺激によって生じる感覚情報は、末梢神経を介して神経系へ伝わります。
この意味で、鍼刺激も身体から神経系へ入る一つの感覚入力として捉えることができます。
ただし、ここでいう「感覚入力が生じる」という生理学的な説明と、その刺激によって特定の疾患が改善することは別の問題です。
・新脳針では神経系との関係を考えながら刺激する
当院では、鍼灸の知見を基礎に、解剖学・生理学・神経科学などの知見も参考にしながら、身体への刺激と神経系との関係を考えて施術しています。
新脳針では、頭部への鍼刺激や必要に応じた鍼通電などを用います。
これらの刺激について、神経系にどのような影響を与える可能性があるのかという視点から施術を考えています。
ただし、これは新脳針によって脳や神経ネットワークを直接変化させたり、特定の疾患を治療したりすることが医学的に確立されている、という意味ではありません。
「身体への刺激 → 感覚入力 → 神経系」という関係に着目しながら鍼灸を考えること。
これが、当院における新脳針の基本的な考え方の一つです。
tVNSを調べている方が知っておきたいこと
・研究結果は疾患や刺激条件によって異なります
tVNS・taVNSについては、うつ病、脳卒中後のリハビリテーション、睡眠、てんかんなど、さまざまな領域で研究が行われています。
しかし、研究によって対象者、刺激する部位、電流の強さ、周波数、刺激時間、併用する治療などが異なります。
そのため、ある研究で得られた結果を、そのまま別の疾患や別の刺激条件に当てはめることはできません。
「tVNSについて研究されている」ことと、「tVNSの効果がすべて医学的に確立している」ことは同じではありません。
・現在の治療を自己判断で変更しない
tVNSについて調べている場合でも、現在受けている治療や服用している薬を自己判断で中止したり、変更したりすることは避けてください。
治療方法の変更については、現在の病状を把握している主治医や医療専門職に相談することが大切です。
・症状に応じて専門医療機関へ相談する
脳・神経に関する症状や疾患については、まず必要な検査や診断を受けることが重要です。
特に、けいれん発作、意識障害、麻痺、急激に生じた神経症状などがある場合は、鍼灸を検討する前に医療機関での評価が必要です。
すでに治療を受けている方は、現在の治療方針を尊重しながら、必要に応じて鍼灸との併用について主治医へ相談してください。
東京 銀座鍼灸院の新脳針療法
東京 銀座鍼灸院では、鍼灸の知見を基礎に、解剖学・生理学・神経科学などの知見も参考にしながら、当院で行っている「新脳針療法」に取り組んでいます。
↑新脳針治療にて、耳介と頚部に刺鍼し通電している例
・病名だけではなく、症状や身体の状態を確認します
同じ病名であっても、症状の現れ方や身体の状態、生活への影響は一人ひとり異なります。
そのため当院では、病名だけで判断するのではなく、現在どのような症状があるのか、いつから続いているのか、日常生活にどのような影響があるのかなどを確認しながら、鍼灸による施術を検討します。
・「脳を直接治す」という考え方ではありません
「新脳針」という名称から、「脳を直接治療する鍼灸」とイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、新脳針はtVNSやTMSと同じ治療ではありません。
当院では、身体への鍼刺激や必要に応じた電気刺激によって生じる感覚入力と、それが神経系とどのように関係する可能性があるのかという視点から、鍼灸の施術を考えています。
新脳針がtVNSやTMSと同じ作用をすること、あるいはそれらの代わりになることが医学的に確立されているわけではありません。
まとめ|耳から神経を刺激する研究と鍼灸
tVNSとは、身体の表面から電気刺激を加えることで、迷走神経系への刺激を試みる方法です。
特に耳介を刺激するtaVNSは、耳介に分布する迷走神経の耳介枝などに着目したニューロモジュレーションとして、さまざまな研究が行われています。
うつ病、脳卒中後のリハビリテーション、睡眠、てんかんなどを対象とした研究がありますが、疾患や刺激条件によって研究の蓄積や医学的な位置づけは異なります。
また、tVNS・taVNSと新脳針には、「身体への刺激と神経系との関係に着目する」という部分で共通点がありますが、刺激方法や刺激対象、医学的な位置づけは異なります。
- ・tVNS・taVNS:電気刺激によって迷走神経系への刺激を試みる方法
- ・taVNS:耳介を介して迷走神経系への刺激を試みるtVNSの一つの方法
- ・新脳針:鍼刺激や必要に応じた電気刺激を用い、身体から神経系へ伝わる感覚入力にも着目する鍼灸
- ・両者は同じ治療ではなく、新脳針がtVNSと同じ作用を持つことが医学的に確立されているわけではない
新しい神経刺激法について知るときは、研究で分かっていることと、まだ明らかになっていないことを分けて考えることが大切です。
一人で悩まず、まずはご相談ください
「持病の治療について調べているけれど、よく分からない」
「現在受けている治療と鍼灸をどのように考えればよいのか知りたい」
そのような場合は、一人で抱え込まず、まずは現在のお悩みをお聞かせください。
東京 銀座鍼灸院では、現在の症状や身体の状態を確認したうえで、鍼灸によってどのようなサポートが考えられるのかをご説明します。
なお、当院での鍼灸は、医療機関で行われるtVNS・VNS・TMSなどの治療に代わるものではありません。現在医療機関で治療を受けている方は、主治医の方針を大切にしながら、必要に応じて鍼灸との併用についてご相談ください。
鍼灸師 人見
関連記事
・TMSとは?仕組み・特徴と新脳針との違いをわかりやすく解説
参考文献・関連情報
- Butt MF, et al. The anatomical basis for transcutaneous auricular vagus nerve stimulation. Journal of Anatomy. 2020.
- Gerges ANHG, et al. Clinical application of transcutaneous auricular vagus nerve stimulation: a scoping review. Disability and Rehabilitation. 2024.
- Tan C, et al. The efficacy and safety of transcutaneous auricular vagus nerve stimulation in the treatment of depressive disorder. Journal of Affective Disorders. 2023.
- Li HL, et al. Effects of Transcutaneous Auricular Vagus Nerve Stimulation With Rehabilitation on the Recovery of Upper Extremity Function After Stroke. Neural Plasticity.
- 日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」
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